ロンドンはバクリー・ホテルの「ザ・プール・バー」。私は、震えるほどの興奮に包まれていた。確かに私は、エルの人生相談アドバイザーとして、いろんな女性の相談にのってきた。でも、今日のお相手は、なんとあの、スター中のスター、マドンナなのだ。しばらくすると、黒いコートを着た小柄で美しい若い女性が「ハロー」と、こちらに向かって挨拶をした。その声は低くて、メロディアスで、不思議に耳慣れしていたけれど・・・・マドンナ本人だわ!トレンディーなバーに颯爽と現れたマドンナは、開口一番、こう言った。「実はこの2日間、1時間しか寝てないのよ」そんな自分をあきれるように、笑っている。実際、彼女の小柄なことといったら、ちょっとした驚きだ。私たちは何年にもわたって、彼女が表向きの顔を素早く変えるのを見つづけてきた。それでいつしか、世界からはみ出すほど巨大な存在だと感じていたのだろうか。42歳ということだけど、(くやしいけど)26歳くらいにしか見えない。きっと子供を産めば産むほど若くなり、洗練されるタイプなのだ。さあ、インタビューを始めよう。

インタビュー:E・ジーン


「あなたには予知能力がありますか?」取材前に考えすぎたせいだろうか。マドンナへの記念すべき最初の質問はこんなばかげたものになってしまった。
「もちろん、いつだってね!」

あきれたように叫ぶ彼女。きっと鼻でせせら笑ってるのだ。
「でも、この前デヴィッド・レターマンの番組でギターを弾いたときは別よ」

とマドンナ。
「番組に出ながら、『いったい全体私は、なんてバカげたことをしてるのかしら?なんでこんな難題ばかりいつも自分に課すの?コードを一つ間違えたって、とんでもない大バカ者だと言われるのに!』って、自問自答していたの。『いつだってやめられる。『いやだ』って一言言えばいいだけなんだから』とか。でも結局私にできたことといえば、そのままずっと番組に出続けただけなの」

「信じられない。だってあなたはマドンナでしょ!そのあなたが、レターマンの番組でギターを弾いて歌うのが怖いだなんて!」私は驚いて叫んだ。
「そうかもしれない。でも、私、信じられないくらい緊張するのよ。24時間ずっと、不安な気持ちでいる。私はこれまで、いつだって、批判され、写真に撮られ、話題にされてきたから」

彼女がそう言ったとき、ろうそくの灯火の下で、ガイ・リッチーに贈られたダイヤの指輪が美しくきらめいた。
「私はいつもクリエーティブであろうと努力しているわ。いつでも世の中に問いを発し、真実を探求し、人生にはどんな意味があるのか、とか、自分がなぜこの世に存在するのかを、見極めようとしている。そう、私はいつだって旅人だった。そして、旅人であるということは闘いなのよ」

マドンナ・ルイーズ・ヴェロニカ・チコーネは、1958年8月16日、イタリア系でクライスラーのエンジニアである父と、その妻のフランス系カナダ人の母との間に8人兄妹の長女として生まれた。彼女が6歳のとき、母親が乳がんで死亡したことがマドンナの人生に衝撃を与えたことは有名な話だ。
「本当に“ひとりぼっち”になった気がしたわ。いつも飢えたように何かを欲しがっていた。あの空虚さを味わってなかったら、これほど何かに駆り立てられているような人間にはならなかったでしょうね」

と、マドンナは語っている。
青春時代、オールAという抜群の成績でありながら、マドンナはいつも世の中をうまくやっていけない自分にいらだっていた。そして19歳のとき、ミシガン大学のダンスコースをやめて、ニューヨークでタクシーの運転手に「“すべての中心の場所”に連れて行ってちょうだい」と頼みタイムズスクエアのど真ん中で降りる。それから5年もたたないうちに大スターに変身した彼女の、その後の活躍ぶりはご承知のとおりだ。


カウンターに座って、マドンナは、あと2つの真実を教えてくれた。ひとつは、鍛えられたボディが、毎日ヨガをすることでキープしているということ。2つ目は、彼女にとって、年をとるということは“人生の過程であって、ただ受け入れるしかないこと”だということだ。「では、あなたの後に続く女性スターたちについてはどう思う?若さと美貌で雑誌や映画に登場する彼女たちについては?」と少し意地悪に尋ねてみる。
「彼女たちもみんな年をとって、しわだらけになって死んでいく、それだけよ」

マドンナは猫のように目を細めた。

「私自身、スターでもあり、悪名高い人間でもあり、人生の勝者でもあり敗者でもあるわけ。人に愛されてもいれば忌み嫌われてもいるけど、あるとき、そんなことはなんの意味もないことだと気付いたの。だからこそ、心おきなく危険を冒せるのよ」

「あの。ちょっとすみません」と黒のツイードのスラックスと、黒のショートセーターが素敵なマドンナに、ハンサムな2人のビジネスマンが声をかけてきた。「私の11歳になる娘ジェンマのためにサインとしていただけませんか?」「いいわよ」と、マドンナは気軽に答える。彼はマドンナに大きな紙とペンを渡す。「そうそう、確か“ブリトニー・スピアーズ”でしたよね」と、ビジネスマンが言った。「以前、あなたが、彼女のロゴ入りTシャツを着ていたのを新聞で見ました。ブリトニーってティーンのアイドルだけど、しょせんセクシーさだけが売り物の女の子だ。なんであなたのようなアーティストが彼女のTシャツを?」
「あれを着ていた理由?着ちゃ悪い?私、ブリトニー・スピアーズが好きなの」とマドンナ。「ブリトニーは私にとって、いわば魔除け的な存在ね。最近では彼女のTシャツを着るのが強迫観念になっちゃった。寝るときもあれを着て寝てるわ。実際、あのTシャツが幸運を運んでくれるような気がするんだもの」

その瞬間、私は椅子からすべり落ちそうになった。ここにいるのは、エルビスとビートルズを除けば、世界中のどの歌手よりも多くのヒットシングルを出したスターだ。その彼女が、験をかついでブリトニーTシャツを着て寝ているなんて!
「今、誰もかれもがブリトニーをバッシングしているのを見ると、本当に腹が立つわけ。私だけはブリトニーを応援したい、って心底思う。だって、彼女はたった18歳よ!私が18のとき、もっと世間とうまくやっていけてたら・・・・」

マドンナは世間がセクシーなブリトニーをバッシングするのが、他人事に思えないのだ。彼女は知っているのだろうか。彼女が「たった18歳」と呼ぶブリトニーが、マドンナの熱烈なファンであるということを。彼女の生き方は、年齢を超えて支持されている。

「ねえ、あなたがニューヨークに来たのが、今だったら、また成功したと思う?」とっさに、こんな質問をしてしまった。

「もちろん、成功したわ。だって私は絶対につぶされずに生き残る人間だもの。私はゴキブリみたいな人間よ。退治するなんて、できっこないわ」彼女が満足げにほほ笑んだ。

インタビューが終わって、自分のホテルに向かって歩きながら、私は彼女が、ステージについて語った言葉を思い出していた。
「人が五感を圧倒され、麻痺したようになるライブをしたい。でも、最近、なんか勝手が違うって思うわ。だって、子供たちが楽屋にいるんだもの。ラインストーンのついた衣装を着て子供を膝にのせて、でも、よーし、今から舞台に登場して、スーパーウーマンになるわ、って自分に誓うんだけど・・・・。違うの。私はスーパーウーマンじゃない。母親なのよ」

いいえ、違うわ、マドンナ。あなたはやっぱり本当のスーパーウーマンよ。だって、この20年間、あのフェミニズムの闘士、グロリア・スタイナムより、もっと多くの女性を解放したし、世界をより楽しく刺激的な場所にしたんだから−。彼女のすばらしさを再確認したところで、ふと気がついた。「ザ・プール・バー」の勘定をマドンナに押し付けちゃったわ!



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